いつも暗い影で彩られている藍色の瞳は瞼の奥で眠っている。
猫はひとつ嘆息して、死んだように動かない男の喉に手を添える。
軽く力を入れればこれは確実に死ぬ。
そっとその手を滑らせるようにして、男の左胸に手を添えた。
伝わる微かな鼓動。まだ、生きている。今はまだ。
白い包帯を腹部に巻いて、男は眠っている。
馬鹿だなあと小さく呟いた。
このまま死ぬのかよ、と尋ねてみても答えるはずがなく。
何の反応も返してこないのがつまらなかった。
ころしてしまおうか。
いや、だがこの男はその場合静かにこのまま死んでしまうだろう。
それでは面白くない。
人形にも人間にもなりきれないこの男は面白いのだ、こんな死体みたいなのをころしても仕方ない。
「早く起きろよ、ヴァッツ」
猫は小さく囁いて、そっと男の頬を撫でた。

灰色ビート








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