見詰めれば眉を顰める、触れれば嫌がる。
煩わしげに、鬱陶しげに。しかしその表情に潜む微かな動揺。
それらを見ることが出来るのは自分だけだ。
今この世界の誰よりも、男のことを知っていると自負している。
生涯、自分よりもあの男を知ることのできる者などいない。絶対の自信をもって言える。

その事実に笑って、それからこうも自分は独占欲が強かったのかと己を笑う。
そう、後は印さえあれば完璧なのだ。自分のものだという、証が。
ずっとずっと残って、消えないような。アイツの心の深くまで楔を打ち込みたい。
「愛してるぜ、ヴァッツ」
骨の髄まで。
男はいつもの通り心底呆れた目で一度睨み、それから付き合ってられるかと顔を逸らす。
沸く欲求そのままに腕を引く。抵抗するが意に介さなかった。強引に床に押し倒す。
「っ、レティー」
僅かに焦った声。
ひっそりと笑いながら無理矢理服の胸元を引っ張り、覗き出た鎖骨に噛み付く。
ぶつりと皮膚が切れ、ゆっくりと血が溢れた。
何も反応しない男を見ると、唇を噛み締めてこちらを睨みつけていた。
にやりと笑いかければ諦めたような溜息を落とす。そして彼は視線を逸らした。
この男の諦めは許容である。


骨にもキスの痕が残れば良いのに
そしたらオレのものだって錯覚できるだろう?

群青三メートル手前(歪愛十題より)




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