日向順平は本音を吐かない。
円滑な人間関係のためにさり気なく相手に悟らせないように気を遣って、思うところがあっても秘めておくタイプだ。
『スイッチ』が入ったときにはその態度が嘘のような毒舌家になるのだが。
「てかさ、ほんっとありえねーんだけど。何あれ。何あの態度」
そんな彼がぐだぐだと愚痴を並び立てる相手は決まって水戸部だ。
寡黙な水戸部相手だと、口を挟まず反論もせず告げ口をすることもないからであろうか。
水戸部がそんなことを考えていると、突然むにゅりと頬を抓られた。そのままぐい、と伸ばされる。
そこまで強くなく、痛みもないあたりが日向の優しさではあるが。
「こら聞いてんのか水戸部ー」
唇を尖らせるその様が可笑しい。
ぱっと手を離して不機嫌そうに睨みつけてくる。
水戸部はそれに笑い返して頭を撫でた。
何だかんだと愚痴る日向だが、何時までもそれに囚われている奴ではない。
こうして水戸部に話すことで、少しでも彼が楽になるのであれば、そしてまた前へ進むことが出来るのであれば、いつだって付き合ってやろう。
がんばれるよ、日向なら。
そうした思いは通じたのだろうか。彼は子ども扱いするなよ、と不服そうに言うも俯いたその唇には微かな笑みが浮かんでいた。
日向の甘えは嫌いではない。

明日と君
(090304)
日向が普通の時でも本音や弱音を吐く相手が水戸部だといいな、とか妄想。

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