日向順平は目前の状況にぎゅっと眉を顰めると、見なければよかったと後悔の念を抱く。
後輩が大量のハンバーガーを黙々と咀嚼するその様に、胸焼けをした。
「どうしたん、ですか?」
毎度のことながらたどたどしい敬語を使って、火神は尋ねた。
その対面で黒子がシェイクを啜っていたが、火神とは対照的にそれだけだ。
いやいや何もと首を振って、座っていいかと尋ねれば火神はこくりと頷く。
口は休まずもぐもぐと動いていた。
自分のバーガーの包みを捲りながら、「ほんとにお前、全部それ食うの?」と聞く。
「そうだけど」
いやいや、そうだけどってお前。その量はおかしいだろうが。
黒子をちらりと窺えば何とも言えない微妙な表情をしていた。
「……もたれそうだ」
「へーきっすよ?」
頬一杯に詰め込むその様は小型げっ歯類のようで。そのイメージが図体とはてんで反対方向だ。
こういうとき、普段の生意気な態度は何処へやら、途端にあどけなさが浮かぶ。
一歳違いの相手にあどけない、なんておかしいかも知れないが、実際そうなのだから仕方がない。
「黒子」
「なんですか?」
「半分とは言わない、だがお前は火神の十分の一くらいは見習うべきだ」
育ち盛りの高校生がバニラシェイクだけっていうのはおかしい。
黒子はあっさりと首を振った。
「無理です」
「ふざけてんじゃねーぞ、お前。そんなひょろいくせに」
火神がバーガーの山から一つを掴んで黒子に渡す。
あんまりお腹空いてないんですけど、と呟きながら黒子は包み紙を捲る。
いつもは無表情だし、今だって微かな変化しか出ていないが、それでもいつもより黒子は感情を表に出している。
少しずつ食べる彼の前では火神が大口を開けていた。
日向は思わず笑ってしまう。
途端、不思議そうな二対の目がこちらを向いた。
「お前ら、ほんとにいいコンビだよ」
お互いに顔を見合わせる黒子と火神の姿に、もう一度日向は笑って自分のバーガーを食べた。
この二人には振りまわされてばかりだが、それでもやはり後輩というのは可愛いものだ。

先輩と後輩
(090306)



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