白く骨ばった手。
焦げ茶色の本を支えるその手を見つめる。
あの手には鞘が、そしてページを捲る方の手には刀が持たれていることが多い。
冷ややかに凍りついた目は、まるで己が作り出す氷のようだ。
伏し目がちのそれは、今は本に向けられている。
文字を追うごとに動く目。
それを見るのが好きだ。
しかしその目が自分に向けられる方が好ましい。
大抵は真一文字に結ばれている唇が開く。
「何か用か」
視線にとうに気付いていただろうに、今まで沈黙を保っていたのはアベルの発言を待っていたからか。
いや、彼は関心を持たない。
いつまでも絡み付く視線が煩わしくなったに違いなかった。
事実、彼はこちらに目を向けない。
しかしあの言葉は自分だけに向かって放たれたものである。
カチリ、と時計の短針が動く音が響く。
アベルは長らく音を発していないが為に渇いた喉に唾液を落とし、口を開いた。
「いえ、お茶をいれようかと」
彼は僅かに顔を動かし、横目でアベルを見た。
その眼光の鋭さに、アベルの背がひやりとした。
だがそれもつかの間、彼の視線は再び本へと向く。
僅かな動作、視線。
それは今、この部屋に唯一いるアベルのためだけのものである。
微かにアベルは口角を吊り上げ、茶をいれるためにと立ち上がった。

いきづまる、僕らの
(090325)

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