窓から差し込む日光が小金井の右頬を照らす。
穏やかな微笑は、いつも明るく笑う彼には珍しい表情だ。
オレは手元の缶ジュースを開けることなく持て余していた。
「オレはね、日向」
ゆっくりとした口調、口元の弧。
「水戸部が、好き」
ああ、知っているとも。
オレは何も応えない、こいつはそんなもの求めていないのだ。
こいつが求めるのは、水戸部だけだ。
「だからね、日向」
執拗なまでにオレの名字を呼ぶのは、水戸部ではないという確認なのか。
あんまりにも握りすぎて、温くなった缶ジュースを開けた。
プシュッ、という気の抜けた音。
「オレは、水戸部の愛したモノ全てを愛するよ」
ゆっくりとオレは笑う。
目前の小金井を真似したものだ。
それは彼の目にどう映るのだろうか。
小金井の目は余りにも澄んでいて、オレはきっとこれ以上に美しいモノなど生涯見ないだろうな、と思った。
無垢なこいつの前で、オレは余りにも汚れているように感じる。
昼休みの教室に不似合いな会話。
教室の喧騒はまるで間に膜があるかのように遠い。
「そんなの、愛じゃない」
小金井は笑うだけ、オレの薄っぺらい言葉は彼を傷付けない。
なんて醜悪なんだろうか。醜いが、それは決して汚くはないのだ。
そんなもの、とオレは笑う。
「水戸部は、綺麗だ」
うっとりと呟く小金井に抱いた感情を、ジュースで流し込む。
甘ったるいそれは喉の奥でべたついた。
神様の小指
小金井君を書くとどうしてこうなってしまうのか、第二弾……(汗
(090522)