小金井は眠気と必死に戦っていた。
もとより数学はそれほど得意ではないし、この間のテストなど悲惨だった。
起きていなければ、全く分からなくなってしまう。
しかし、教師の声はなんとも耳に心地よく眠気を誘った。同時に話はあまり面白くない。
これで寝るなと言うのは拷問だ。
いっそ早く授業が終わってくれればいい、と欠伸を噛み殺しながら時計を見上げる。
今は六限。
もうすぐ、部活だ。
途端気分が塞いだ。そんな自分に更に落ち込む。
以前はあれ程部活が楽しみだったのに、早くボールに触りたいとうずうずしていたのに。
たった一試合が、自分を変えてしまった。
ふと手元に目を落とすと、ノートの字が擦れてしまっていて、何とも情けない気持ちになる。
早く帰りたい、と溜息を吐いた。

圧倒的な大敗。
勝負事なのだ、勝つこともあれば負けることもある。理解はしていた。
それでもいつだって負けると悔しかった。
だけど、あの試合が小金井に突きつけたものは、そんなものじゃない。

カントクは少しだけ快活さを失った。それを誤魔化すように今日も声を張り上げる。
水戸部は相変わらず無口だけど、時々翳った目をすることが多くなった。
伊月は時々部活をサボるようになった。ダジャレも減った。
土田は以前よりも険しい顔をするようになった。ほんの少し、だけど。
日向の笑顔はぎこちなくなった。力強さが、欠けた。
自分は、どうだろうかと小金井は考える。級友には最近元気ないな、と言われた。
だけど日向とカントクは普通の態度を貫こうとしていた。あの二人は部を纏める役柄だし、責任感が強いから。
だから、何でもない顔を装って、サボる伊月だとかオレを窘めに来る。
その度に罪悪感を覚えるのだけれど、彼らの表情にもそれと似たようなものがいつだって見える。
きっと皆、迷っているのだ。
あの時こうしていたら、と後悔できたならまだ良かったのかもしれない。
誰かを責める事ができたなら、もっと気が楽だった。
それが出来ないから、自分達の歯車は歪んでしまったのだ。
例えあの場面でシュートを決める事が出来たとしても、結果は変わらなかっただろうと思う。
そう思ってしまうから、だから、こんなにも遣る瀬無い。

遠慮がちに自分の肩に触れる水戸部。
部活に行こう、ということだ。
小金井はにっこり笑って、行こうか、と呟いた。
これだけ暗い影を落とすこととなったバスケを、それでも諦め切れない。
どうしたらいいんだろうね、と小金井は水戸部に問う。
どうしたら、どうしたら、どうしたら?
水戸部の表情が沈む。ああ、こんな顔をさせたかったわけではないのに。
ごめんね、水戸部。
小金井の頭を撫でる水戸部の手は相変わらず優しかった。

けない

(090701)

inserted by FC2 system