気付けば、触れてしまえる距離にいた。
「ヴァッツ」
藍色の目がレティシアをとらえ、そしてすぐに逸らされる。
彼はあまりレティシアの目を直視しようとしなかった。
「なんだ」
彼の視線が向かう先は本。
呼べば応える、ただそれだけのことなのにいつまでたっても違和感が拭えないのは、きっと捩れに捩れたあの時が長かったから。
今は捩れていないのか、といえば、そういうわけでもないのだけれど。
本当に変な感じだ、と内心で呟きながらも手を伸ばす。
彼の腰の辺りに腕を絡め、抱きついた。
邪魔そうに身じろぎするが、心底嫌がっている様子は無い。
「……レティー」
「なんだよ」
「邪魔だ」
呆れた眼差し。
本を読むのに、邪魔。
「オレがこうしてるのは嫌じゃないってこと?」
藍色が細められた。見下ろすそれはとことん呆れた色を浮かべていた。
溜息一つ吐いて、彼は本を手放す。
何か言いたげだったが、諦めたように口を閉ざす。
レティシアは何も言わず、ただ腕に力を込めた。
絡みついた腕が、振り解かれることのないように。
「……たいがい馬鹿だな、お前も」
「ヴァッツに言われたくないね」

信じられない

(090701)

inserted by FC2 system