「ヴァッツ」
ああ、なんて情けない声。
レティシアは自潮する。
組み敷いた彼はただ見つめ返すだけ。
苦しげな表情に形容し難い衝動が沸く。
まるで恋人のようにその頬を撫でて、名を、呼ぶ。
「ヴァッツ」
今、この瞬間、きっと誰よりも自分はこの男を想っている。
「ヴァッツ……ヴァンツァー」
滅多にしない、愛称でない呼び方は真摯さを表すため。
どこまで伝わるかは定かではない。
愛している、と呟こうとして、止めた。
彼の口が自分の名をつむぐ前に、キスでふさぐ。


愛などとおこがましい
(090828)

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