手を伸ばせば触れられる距離。
しかし、ぴったりとくっついているわけではなく。
座った二人の間には微妙な距離。
まあ昔よりは近くなったか。
ここに、横たわるものは何だろう、とうっすらレティシアは微笑する。
絶対に侵せない互いの領域だろうか。踏み込めない、最後の。
本を読むヴァンツァーの横顔を眺めた。藍色の目が瞬きする。
たまにはこっちを見ればいいのに。
視線を向けやしないヴァンツァーに、そしてその視線を向けられる本に、微かな苛立ち。
つまり自分は、そこまでこの男に入れ込んでいる。
さて今の自分にこの距離が関係あるだろうか?

答えは、否だ。

例え自分達の間に決して相容れぬ領域があったとしても。
ならば踏み込めるだけ踏み込んでやる。
肉体的な距離などは最早関係のないことなのだ。


境界線
(090901)







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