「あ」
「んあ?」
日向は土田の声に首を傾げた。土田の視線の先には、日向、のくわえるパン。
「食いてえの?」
「いや、な、何でもない」
珍しくも焦りを浮かべる土田に、日向は疑問符を浮かべるばかりだった。
が、伊月がとん、と日向を小突く。
日向は伊月と視線を交わし、ああ、と頷いた。
「ほら」
日向はパンの包装に貼ってあるポイントシールを剥がして土田に渡した。
一瞬のアイコンタクトで意思疎通しあう二人に何だかなあと思いつつ、土田は照れ笑いを浮かべてそれを受け取る。
日向が苦笑する。
「素直に言えばいいのに」
「あはは……」
「後何点?」
「えーっと……十点」
「間に合うのか?」
シール貼り付け期間は後五日。
土田はどうだろうなあと悩む。このキャンペーンに気付いたのが遅かったことを悔やんでも、どうしようもなかった。
「ツッチー!」
ばん、と屋上のドアを開けて小金井が駆け込んできた。焦った様子の水戸部もそれに続く。
不安そうな水戸部の顔は小金井がこけやしないかとはらはらしているのだろう。
「これ!オレと水戸部から!」
渡されたのはポイントシール。二点が一枚、一点が二枚。
「ありがと。でも、何でオレが集めてるって分かったんだ?」
「今朝コンビニでキャンペーン案内見てさ、ツッチーなら集めるだろって。なー水戸部」
水戸部がこっくりと頷く。
思考回路がばっちりと読まれていることに気恥ずかしさを覚えた。


「あ、先輩」
背後からいきなり声がかかった。
ぎょっとして振り返り、視線を下に。黒子が土田を見上げていた。
「黒子かー。どうした?」
「すみません、ちょっと来てください」
黒子はちょうど良かったです、とも言って、自分のクラスへ向かう。
違う学年の教室に入るのは少し躊躇われたが、黒子に続いた。
教室に入ると、火神が大量のパンを口いっぱいに頬張っている。
「ん、む」
土田を見るなりきょとんと目を瞬いて発言しようとする火神を黒子が手で制し、彼の机の上のパンの袋からシールを取って剥がす。
勝手にいいのだろうか、と思ったが火神は黒子の行動を不思議がっても、止める様子は無い。
火神にとってポイントシールなど目に入っていないだろう。
「どうぞ」
たくさんシールを貼り付けた手が目前に広げられる。
まさか、後輩にまでばれるとは。
苦笑するしかない。
「いいのか、火神?」
一応尋ねるも、火神はあっさりと頷く。
「ありがとな、火神、黒子」
「いえ、どうせ火神くんは捨てるだけですから。がんばってくださいね。あと何点ですか?」
「これで溜まったよ」
「そうですか、良かったです」
黒子はうっすら微笑して、がんばってくださいね、ともう一度言った。
火神だけが状況が読めず首を傾げている。


部室を目指して廊下を歩いている途中、はあ、と相田は溜息を吐いた。
なんてついてない。
「相田!」
向こうから土田が駆けてきた。手にはコンビニの袋が握られている。
「土田くん?」
「これ、あげる」
差し出された袋の中を覗き込み、相田は目を丸めた。
「っ、これ!いいの?ほんとに?」
「うん」
それは相田の好きなキャラクターのマグカップだった。
ポイント二十点と交換の非売品。しかし相田の通学路にそのコンビニは無く、キャンペーンを知ったのも今日、友人のパンを見てから。
どうしても、というわけではないが、それでももっと前に知っていれば集めているぐらいには欲しかった。
「ありがと、土田くん」
にっこり笑えば、土田も柔和な笑みを返す。
大事にしよう、と相田はそのマグカップを胸に抱いた。



シール


「皆が手伝ってくれたんだ」
「そうなの?後で皆にもお礼言うわ」
(ばっか土田!言わんでいいっつーの)
(まあまあ日向、ツッチーらしいじゃん、ね?)
(キャプテン、伊月先輩……何やってる、んですか?)

(091027)








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