交わらない視線、見えないが確かに存在する境界。
それが自分を取り巻く当たり前のものであることは分かっていたのだが。
煩わしい事に変わりは無い。

「何やのん、自分。さっきからオレのこと見て」
眼鏡の下の細い目は表情を窺わせない。口元に張り付いた苦笑。
今吉は首を傾げる。
しかししつこくは追求せず、戸惑った様子で青峰の言葉を待った。
乖離している、と青峰は思う。
今吉の中で、最早青峰は別次元として見なされている。
若松のようにやたらと敵視されるのも煩わしいが、明らかな境界線を引かれることもまた気に障る。
そんなことは慣れっこなのに。
例えばもしこれが青峰でなく他の誰かであったなら、今吉の態度も違っていただろうか。
くだらない、と一蹴するも胸に沸く想いは消えない。
見えない壁が煩わしい。
その感情がどこから起こるものかも分からず。
青峰は何でもない、と言って踵を返した。
自分の背を見る今吉の表情を見たくない。或いは、視線が向けられてすらいないかもしれない。
何故だかむしゃくしゃするので、今日の部活はサボることに決めた。


横たわる溝
(091027)




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