冷たい指先を隠すようにして拳に握りこむ。
鋭い青峰の視線になんだよ、と言ってから自分の声が思ったよりも弱弱しいことに驚いた。
彼は何も言わない。ただ変わらず若松を見据え続けた。
鬱陶しい、のに。掴まれた腕のせいで立ち去る事もできない。振り払うには、覚悟が足りなかった。
だけどもここにはいたくない。全てを見透かしそうな青峰の視線が嫌だった。
何にもないなら離せよと言おうとして、けれども青峰の表情がどこか途方に暮れた風だったからどうにも突き放せない。
一体オレにどうしろって言うんだよ、と言おうとしてそれも止めた。
何も言わず彼の出方を待つのが最善なのかもしれない。
しかし、ずっとこうしているのは苦痛。若松はどうしてよいか分からず、やはり立ち尽くすしかなかった。
いっそ何もかもかなぐり捨てることが出来ればいいのに。それならば──。
けれどもやはり出来るわけがなくて、馬鹿みたいに突っ立てることしか出来ないのだ。
でもそれはきっと青峰も同じなのだろう。だから何時までたっても何も言わずこうしてる。若松の腕を掴む手の平がやけに熱い。
あと、十秒だけ待とう。それでもこのままなら、とっとと振り払って立ち去るのだ。
一、ニ、三──
ぎゅっと一文字に結ばれていた彼の口が微かに開く。若松はカウントを止めて彼の一挙一動見逃すまいと息を詰めた。
「……あんた、」
随分と久しぶりに聞いた気がする青峰の声は、少しだけかすれていた。
「あんた、オレのこと好きだろ」
馬鹿かお前、と呟くのは胸中に留めた。下手をすれば蹴られかねないからだ。
それにしても、言うに事欠いてそんな台詞。呆れずにはいられない。
けれどもあながち間違ってはいないのが困る。どう反応すればいいのか分からず、一瞬で混乱に陥った。
そしてその挙句何とか搾り出せた言葉が、
「自惚れてんな、馬鹿」
で、言うに事欠いてオレもこんな台詞かよ、と自分でも思ったけど素直さなんてもう無くしてしまったのだから仕方ない。
顔赤いけど、って指摘する青峰がもしにやついてたなら怒鳴り散らしていただろうけど、こいつまで赤いんだからどうしようもない。



最果てに潜むのは、

(091029)


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