身を包む倦怠感に身を任せていたが、先程まで相手をしていた男がいやに静かだ。
ちら、と視線を向ける。
明るい色合いの髪が電灯に照らされて光る。その飴色の目は一心に自身の足に向けられたままだ。
先程から飽きる事無く何をやっているのか。
「おい」
「ん?」
呆れた声音で声をかければ、猫の目がヴァンツァーを見据える。
「さっきから何を……」
レティシアは目前の足が引っ込められる前に、素早くそれを掴んだ。
その行動に眉を顰めると、男はにやりと笑って足の甲を撫でた。
ますます眉間の皺を深めたヴァンツァーには構わずに口を開く。
「食べるんなら足先からかなあって」
その言葉に今度こそ不快の念を露にして、その手から逃れようと足を引こうとした。
しかし、レティシアはその行動を見越していたのか、力が入らないように足の急所を掴んでいる。
この男が何処まで本気か判断できず(しかもどんなことでもやりかねないので)、ヴァンツァーは息を詰めた。
くつくつと笑って、
「足の指はほとんど骨かな」
レティシアはそっと確かめるように足を撫でながら、上へと滑らせていく。
「で、脹脛」
微動だにしない足の持ち主を故意に無視して、彼は話を進めていく。
ヴァンツァーは藍色の目で、男を見詰めていた。
「最後に、太もも。一番おいしいらしいぜ」
相も変わらず、優しい手つきで太ももを撫でた後にようやく顔を上げて目を覗き込んでいる。
飴色の瞳は輝いているが、それが何を表しているのかは分からない。
いまだ緊張しているヴァンツァーには構わず、レティシアは身を屈めてかぷりと彼の太ももを甘噛みする。
「っ!」
びくりと体を揺らして反応すれば、男は心底愉快そうに唇を歪めた。
「冗談だぜ?ヴァッツ」
「……悪趣味だな」

その言葉は、嘘か真か。


目の前で片足を完食
群青三メートル手前(歪愛十題より)



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