部活帰り。
小金井は最寄の大型書店に来ていた。
水戸部が好きな作家の最新刊を買いたいと言い出し、参考書だの何だのと言いながら皆でやって来たのだ。
「水戸部ー、あった?」
寡黙なチームメイトは嬉しそうにこっくりと頷いて、買った本の入ってある袋を持ち上げて見せた。
よかったな、と小金井は笑う。彼が嬉しそうだとこっちまで嬉しくなるのが不思議だ。
読んでいた雑誌を棚に戻して、さて他の面子は、と辺りを見回すと土田が近くにいた。
「ツッチー、参考書買うの?」
「いや、良さそうなのがあるかなと思って」
成績の芳しくない後輩のために。
んー、と小金井は首を傾げる。参考書を薦めるよりは、
「中途半端に参考書を渡すよりは、私達が教えたほうが早いわ」
「うわ、カントク!」
いきなりの出現と、同じことを考えていたことの両方に驚く。
「うわって何よ。失礼ねー」
「相田はもういいのか?」
「うん、買いたい雑誌も本も見つけたわ」
「あ、今月号出てたのかー」
「読み終わったら貸すわよ」
相田の出現に驚く様子も無く会話を進める土田。
この二人は何気に仲がいい。
「で、日向くんと伊月くんは?」
「今から探すとこ」
「伊月の場所は想像つくなー、オレ」
「オレも。どうせお笑い関係のとこだよなー、水戸部」
その場の全員でその棚へと向かうが、想像通り伊月はそこで雑誌を読みふけっていた。
やっぱり、と呆れた笑いを浮かべて顔を見合わせる。
「もう帰るの?」
伊月が残念そうに言った。名残惜しげに雑誌を棚に戻す。買えばいいのに。小金井のようにもう財布がピンチなのだろうか。
次いで日向を見つけた。
「お、帰るのか?」
「日向くん、それ!」
相田が日向が元の場所にしまった本を手に取る。目がきらきらと輝いていた。
表紙を見ると、なんとも可愛らしい小型犬の写真。
相田がぱらぱらとページを捲くる。可愛い、と小さいが黄色い声。土田がほんとだな、と相槌を打った。
そうやってるとやっぱり女子だなあ、なんて、言ったら怒られそうなことを内心で呟く。
日向は不満気に唇を尖らせた。
「犬の写真集はあんのに、猫はないんだよ」
「日向は猫好きだもんね」
「どっちも可愛いじゃない」
猫派の日向にとってはお気に召さないらしい。
しかし何だかんだで相田の隣で犬の写真を眺めている様子から察するに、犬だって嫌いなわけではないのだろう。
ああやって可愛さ談義に花を咲かせ、猫が無いと怒る様は可愛らしい。
スイッチの入ったときとは想像のつかない姿でもある。
その横でニコニコ笑う相田と、同じく頬を緩ませる土田。そして何時の間にか移動して、相田の後ろから本を覗き込む水戸部。
微笑ましさを感じずにはいられない。
小金井もあの本を見たくてうずうずしてきた。割と動物も可愛いものも好きな方である。
表紙のあの犬だって、潤んだ目がなんとも愛らしかった。
日向の隣から写真を覗き込む。伊月は小金井の隣に立った。
「あー、すっげえ可愛い!見ろよ伊月!」
「うん、可愛い(日向が)」
結局はしゃぐ日向に笑いかける伊月。日向が、っていう心の声が聞こえた気がするのはきっと幻聴だ。

かわいい、

(先輩達、仲良いですよね)
(てかなんつーか、ああやってんのかわいいな)
(ですね)

(091118)



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