顔を合わせれば悪態をついてばかり。
笑いあったことなど、あっただろうか。


隣を歩く若松を、青峰はちらちらと窺う。
それは学校を出てからもう何度目のことだろう。とうとう我慢出来ず、尋ねる。
「んだよ青峰。お前さっきからおかしいぞ」
「アンタさ」
青峰は若松を見つめる。
その顔があまりにも真剣で、若松は何を言われるのかと身構えた、のに。
「笑わないよな」
「……は、あ?」
何を言うかと思えば。
しかし青峰は変わらず真剣な顔付きである。
真剣というよりは、深刻。不安に近い色が浮かんでいる。口先を尖らせて、青峰は若松の答えを待っている。
普段は生意気でしかない表情が、一転してひどく幼く見える。
「……なに、お前、んなこと」
気にしてたのか?
この青峰が?
ぶっ、と思わず噴き出した。慌てて口を押さえてそっぽを向く。
いくら青峰相手であろうと本人が真剣なのだからこの反応は可哀想だ。
しかし逆に、真面目な顔でこんなことを言う彼がなんというか微笑ましい。
「なっ……」
青峰が絶句した。若松の反応が予想外だったのだろうか。
次の瞬間には背中に衝撃。どつかれた。痛みに笑いが引っ込む。
「ってぇなテメェ!」
「笑ってんじゃねーよ馬鹿!」
青峰が若松を睨む。
背中はじんじんと痺れ、若松はくっきりと眉をしかめた。
「笑って欲しがったのはどいつだよボケ!」
「そっ……ういうんじゃねーよ!」
チッと盛大に舌打をして、青峰は足を速めた。
ずんずんと肩を怒らせて歩いていく。
その拗ねた背中を見るうちに、またもやおかしさが込み上げてくる。
背中の痛みは多目にみてやることにしよう。
若松はくつくつと笑った後、彼を追うが、横には並ばず後ろを歩く。
自然と緩んだその口元を、青峰は見ていない。


(091118)

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