手の下、生暖かいもの。
気付くと一心不乱にそれを両手で握っていた。

否、絞めていた。

「あ、おみね?」
それが青峰の首であることに気付く。
彼の体に馬乗りになって、若松は首を絞めていた。
「なん、で……」
若松の意に反して腕の力は緩まない。
若松は焦った。
「絞めて、る、のはアンタの、意思だ、よ」
首を絞められているというのに青峰は笑った。
これは、何だろう。
この状況が、青峰が、怖かった。
何故か手の力は緩まない。何故自分は青峰の首を絞めているのだろう。
青峰は何故抵抗しないのだろう。

「アンタが、望んでるんだろ」

首を絞められているというのに、やけに明瞭な言葉。ゴキリ、という嫌な音。
若松の下で、青峰は絶命した。


若松はベッドの上に体を起こしてぼんやりと両掌を見つめた。
背中にかいた汗が気持ち悪い。
青峰に対して良い感情は抱いてはいない。しかし、いくら夢であろうと殺すなど。
ねっとりとした嫌悪感が付き纏う。いやに体が重かった。
『アンタが、望んでるんだろ』


「こら青峰!お前またサボる気かよ」
「うっせーなー」
二年生の誰かが青峰に突っかかっている。いつものことだ。
あまりにも青峰が酷い態度であればそれに若松も加わっていたが、今日だけは別だった。
青峰を見たくない。
見ればあの夢を、あの生々しい感触を思い出しそうで嫌だった。
「青峰くん、首、どうしたの?」
桃井の言葉。若松は耳をそばだてた。首、青峰の、首。ざわざわと背中を悪寒が這う。
「寝違えたんだよ。だから今日は休む」
若松はそっと視線だけで青峰を窺う。そして慌てて目を逸らした。
青峰と視線が合ったからだ。彼は、笑っていた。夢の中のように。
「変な夢、見てさ」
どきり、とする。
「若松サンに首絞められる夢」と青峰が続けたら?ドキドキと心臓が早鐘を打つのに、急速に手先は冷えていく。
しかしそれ以上青峰の夢に触れられる事はなかった。
だが、若松は青峰の表情から確信してしまった。あの夢と同じように笑っていたから。きっと青峰は知っている。
ありえない、ただの妄想に過ぎないのに、その考えは脳裏にこびり付いて離れなかった。

その夜、若松はまた夢を見た。
青い獣に喉笛を噛み千切られる夢だった。

その夢を思い出しては若松は喉を撫でる。
そこに未だ知らぬ獣の熱があった。


(091129)

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