好きでした、好きでした。
世界でいちばん。

そういえば、と黄瀬くんが笑った。ちょっと困ったように下がる眉、はにかんだような笑み。
ボクの、一番好き(、だった表情)。
「ちゃんと、お別れしてなかったっスね」
「そう……でしたね」
お別れ。お別れ。ぐるぐると彼の声が脳内で響く。そう、お別れ。
悲しい、とても哀しかった。
黄瀬くんの眉がますます下がる。落ちてしまうんじゃないだろうか、なんて馬鹿なことを考える。
「そんな顔、しないで」
彼の白く綺麗な手が伸びてきて、だけどボクに届く前に止まる。
そして力なく落とされた。その事実がどうしようも悲しくて、けれどもう、その手に甘えるべきではないのだ。
(さよなら、ボクの大好きだった、君の手)
「オレ、黒子っちのこと、大好きだった」
「はい、ボクもです。一番、好きでした」
でも、お互いに一番じゃなくなってしまった。
何故だろう。何時の間にか二人の間には溝が出来てしまった。ゆっくりゆっくりと、青い溝が二人を引き離した。
大好きだった、愛していた。でも、もう──。
「オレ、今、好きな人がいるんスよ」
「ええ。知ってます」
「あはは、やっぱり黒子っちにはバレバレっスか」
くすりとボクは笑う。泣きそうだったのを隠そうとした。でもきっと彼には分かっていただろうけど。
「ボクにも、好きな人ができました」
君以外に。
その気持ちに後悔はないけれど。
でも、やはり何故、と考えてしまう。
だってボクたちがお互いに心を交わしていたころは、よもやこんな日が来るなんて想像もしていなかったのだから。
あの日のボクらは、永遠を信じていたから。
ずっと、と交わした約束。それも時の流れに呑みこまれてしまった。
でもあの時の気持ちは決して嘘じゃなかったのだ。
だから、
「黄瀬くん、」
「はい」
「お幸せに」
「……黒子っちも」
ボクは笑った。さよならの代わりに。

好きでした。好きでした。
世界で一番。
だからボクは君と笑顔で別れよう。



あの日の永遠
(永遠を信じてたボクら)

(091129)




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