体の内側に染み込む冷気を追い出すかのように、吐息が漏れた。まだ白い息になるほどではない。
何で寒いと息吐いてまうんやろ、と思いながら今吉は玄関の脇に設置された自動販売機の前で止まった。
温かい飲み物がずらりと並んでいる。夏とは打って変わって冷たい飲み物は少ししか無かった。
コーヒーにするか、とポケットから財布を取り出したところで後ろから声がかかる。
「おはようございます」
その聞き覚えのある声に振り返ると、若松は会釈して通り過ぎようとする。巻いた青いマフラーが目に入る。
「何や寒そうやなあ、自分」
彼は立ち止まり、寒いんすよ、とマフラーに顔を埋めるようにして今吉を見た。
くっきりと眉間に寄せられた皺と、大きい体を縮こまらせるようにする様が意外だった。
「寒がりか。意外やわあ。寒くても元気に走り回ってそうやのに」
「……」
返答に窮したように若松は黙って今吉を見た。その表情には僅かな警戒。
この後輩が自分に対して苦手意識を持っていることは知っていた。
すぐに表情や態度に出るんやから、と内心で呆れる。まあ分かりやすくていいのだけれども。
立ち去るタイミングを失った、とばかりの彼に、笑いかける。
「ちょい待ち。コーヒー飲めたっけ?」
「え、はい」
小銭を入れて、ボタンを押す。出てきた缶コーヒーを手渡した。
「奢ったるわ」
「……っす」
意外だったのだろう、彼はぱちぱちと目を瞬いて、両手で缶コーヒーを包み込む。
その温もりに、眉間の皺が溶ける。緩く、肩が下りた。
「まあ寒くてもがんばり」
「ありがとう、ございます」
若松が微かに笑って会釈をして今度こそ去った。
今吉は今度は自分の分を選び、取り出す。温かい。
若松のリラックスした表情は、あれが初めてだなと今吉は思った。

寒い日にとけた

(091208)
今吉二年、若松一年で妄想。


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