勝利の余韻はすぐに断ち切られた。
浮ついていたメンバーが青峰の怒った様に萎縮し、ぴりぴりと空間に緊張が走る。
このチームにいつも纏わりつく、緊張。
それがあることを理解し、納得しているはずなのに。やはり、慣れない。
桜井を落ち着かせないのはもう一つあった。
今さっき怒鳴ったことも、怒りの理由も、普段の青峰とはどこか違っていた気がしたのだ。
桃井の表情も気にかかった。
「おら桜井。ぼーっとしてねえで早く荷物まとめろよ」
軽く頭を小突かれた。謝りながら振り返ると、若松だった。
勝利の声を上げて、今吉に諌められていたのを思い出す。
このチームが皆そろって祝ったことなどあったろうか。合間合間にしらけた空気があるのだ。
そんな中でのこの若松の存在も中々異色と言えよう。
考えながらも荷物を鞄に詰めた。ばらばらとチームメイトが出て行く。
青峰が人の固まりを避けるように一人で出て行き、桃井がそれを追った。
青峰の、背。やはりいつもと違う。何故だろう。かつてのチームメイトだったという、あの黒子という人の所為か。
先ほど怒ったのもやはり彼の人の話が原因だったのだから。
青峰と黒子の間の因縁も、どういった感情が間にあるのかも、桜井は何も知らない。きっと知る事無く終わるのだろう。
自分が、こういうチームにいるのだと分かってはいた筈なのに、時々何とも言えない感覚を覚える。空しさ、に近かった。
若松が出て行く。
試合が終了したときに頭を撫でられた。その手の温もりを思い出す。
慌てて部屋を飛び出し、小走りに若松を追った。他の同期は皆出て行ってしまったし、だからといって一人なのも嫌だった。
「先輩」
「ん?」
若松が追う桜井を見て、歩調を緩めた。その隣に並ぶ。
言っていいものか、迷った。だけど、人の合間にあるのに感じる孤独感ほど嫌なものはなかった。だから、言った。
「勝ちましたね」
彼はちょっと目を瞬いて、それから大きな手で桜井の頭を乱暴に撫でた。
「おう」


花のない茎
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