君が笑う、

もう何度も日向の家にお邪魔してるけど、来る度にしてしまうことがある。棚の確認。
(減ったなあ)
最初は棚にずらりと並ぶミニチュアの甲冑に圧巻されたものだけど、今はその一体一体の間にぽかりと空間がある。
その空間に詰まっている目に見えないものに、オレはいつも慎ましい気持ちになった。
日向の趣味の戦国武将フィギュア。
バスケの犠牲となった彼等は通算百体を越えるとか。
部活に勉強に忙しい高校生男子の彼は、バイトなんか出来るはずもなくお小遣いで過ごしているから、当然フィギュアを買える量にも限りがあって。
結果がこの不揃いな棚である。
シュートミス一つにつき一体お陀仏、な練習を始めた当初のフィギュアの消費はやはり今より激しかった。
あの時期の、部活が終わるごとの日向の落ち込みようといったら。
当時は何もそこまでと飽きれ半分に慰めていたけれど、今はまた別の感慨がある。
「なににやついてんだよ」
「いや、別に。最近買ってないの、あれ」
「あー……時間が無い」
あ、すごく残念そう。
「減ったな」
「しょうがねえだろ。供給と消費のバランスが釣りあってねえし」
「でも、去年と比べたら減っただろ」
オレがそう言うと日向は渋い顔をして、減らないと困ると言った。
去年よりも、一月前よりも、そして昨日よりも。日向は毎日毎日努力して、着実に力をつけていた。
ずっとずっとシュートだって入るようになったのに、それでもあの練習方法を止めないのだ。
そんな日向だからオレたちも頑張れるんだよなあと思う。
恥ずかしくて言わないけど。
「……日向は、」
「ん?」
「……んーん。キャプテンは頑張ってるから。オレも負けてられないなって」
「オレもお前らに負けられねーからな」
日向が笑う。その笑顔はいつだって真っ直ぐなのだ。
オレはいつか、言いたい言葉がある。
日向はオレらの自慢のキャプテンだよって。



僕らも笑う
(100208)


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