「一年かあ」
ぽつんと木吉が呟いた。
「ん?」
「やっぱ、改めて長いと思ってさ。順平も成長したし」
「何で上から目線なんだよ」
イラッとした。ので、軽く殴っておく。
「痛い」
「知らん」
「でもほんとなんか時間の流れってやつを実感したな。オレの知ってるみんなとは、少し違う」
「……」
木吉の横顔を日向は眺めた。
見知った、何を考えているのか読みづらいその表情。
踏み込めぬもどかしさに焦れる様な感覚に息が詰まる。
これも久々だなと思った。
「長いなあ」
「まあ、一年だし」
「背、伸びたなあ」
「お前は親戚のオヤジか」
「だってお前、病院来なかったじゃん」
メールも滅多にしないし、と木吉が言う。日向はうっと内心で呻く。僅かな罪悪感。
木吉の抜けた穴は大きくて、埋めようと足掻くのに必死だったのだ。ずっと。
そんな中で連絡なんてしたらきっと愚痴を漏らしてしまうから。
弱音を吐く姿を見せたくはなかった。
「つーかリコ以外、定期的にメールしねえし」
「あーもー、んだよ、寂しかったのか?」
冗談のつもりだったのだけど、予想に反して木吉は至極真面目に頷いた。
「そうかも」
あんまりにもすんなりと肯定されて、虚を衝かれた。
その隙に腕をぐいと引かれた。気付くと木吉の腕の中におさまっている。
慌てて暴れてみたけれど、どうにもならない。それ以前にこの状況が嬉しい自分もいる。
木吉の、体温。久しぶりだ。
「ずっと、オレ、こうしたかったんだよ」
「……うん」
「電話してこないかな、メールしてこないかなって、思ってた」
「う……」
「でも、オレがしょっちゅうそんなんして、頑張ってる順平の邪魔すんの嫌だったからさ」
何故自分はここで、何も言えないのだろう。
(電話とかそんなんしたら、会いたくなる、だから)
日向は木吉の背に腕を回して力を込める。
「寂しかったよ、オレは」
ぎゅっと更に力を込めて抱きしめられた。
だから、と。
木吉は日向の耳元で低く囁く。
「順平も、寂しかったって言って?」
そんな言い方はずるい。顔が熱かった。
そんなこと、言わなくても分かれよ。そう腕に力を込めた自分の方がずるいのだと思った。


ずるいのは、
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