奇妙なやつだと思う。
ヴァンツァーはいつもそこにいた。
隣でもなく、真後ろでもなく、言うなれば斜め後ろ。
彼が今までその立ち位置を変えたことは無い。
レティシアはヴァンツァーが自分に対して恐れと嫌悪を抱いていることを知っていたし、特段それを気にしてもいなかった。
今まで出会った人間は皆そうであったし、他人が自分をどう評価しようが構わなかったのだ。
だがこの男はそんな感情を抱いておきながらも、付かず離れずののバランスを保ってそこにいた。
誰もが自分を遠ざける中で、静かに、そこに。
レティシアがそれに気付いた時、里を失くしても尚行き続けるこの男は面白いと改めて思ったのだった。
彼の藍色の目が自分を見詰めるたびに、殺したいと思う。
ヴァンツァーはきっと、楽しませてくれる。
しかしこの男は誰よりも生きることに絶望している死にたがりの癖に、強いこだわりを持っていて生への執着を失っていないのだ。
相反する二つのそれがヴァンツァーの瞳を彩っていた。
ただ死にたいだけの者を殺しても面白くはないので、ますます格好の的である。
だがこの男の求める答えなどあるのかどうか、もし彼がそれを見つけたときにどうするのかが気になった。
今すぐにでも殺したいが、この男の今後を見届けたい。
レティシアがここまではっきりと反する考えを抱くのはまれだったが、たまには悩むのも悪くはないと笑う。
二つの願望の均衡はいつ破れるのだろうか。

天秤の上

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